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「令和のミスター円」と呼ばれる神田真人・前財務官

連載「令和のミスター円」(第1回)

 歴史的な円安・ドル高に対応するため、政府・日本銀行が巨額の為替介入に踏み切りました。財務官として介入を指揮した「令和のミスター円」こと神田真人氏のインタビューを軸に、介入の裏側を解き明かします。=敬称略

 外国為替市場の動きをつぶさに見ながら、財務官の神田真人は危機感を覚えた。今年4~5月の大型連休中のことだ。

 「これはまずい。(介入を)やらなきゃいかん」

 年初に1ドル140円ほどだった円相場は、2月に150円を突破すると、4月29日には34年ぶりに一時160円にまで達していた。

 神田は財務省の国際業務や通貨政策を担う責任者だった。このころ、5月上旬にジョージアで開くアジア開発銀行の年次総会など国際会議への対応に追われていた。為替市場だけに目を向けていられない状況だったが、過度な円安は輸入物価の上昇を通じて国民生活に大きな影響を与える。国を愛することを公言してやまない神田にとって、看過できない事態だった。

 為替介入は財務相の権限において行うが、裁量は現場のトップである財務官に委ねられている。つまり、介入の実施を判断するのは、実質的には神田と言えた。

 関係者によれば、介入を決めた神田は、東京都内を離れていた鈴木俊一財務相に電話で報告し、財務省の実動部隊に額やタイミングを指示。4月29日に5兆9185億円の円買いドル売りの介入に踏み切り、一時154円台まで戻した。5月1日にも3兆8700億円の追加介入を実施。その判断について、部下には一切、事前に伝えていなかった。神田は言う。「情報が漏れたら終わりだから」

 心構えはできていた。「1年ほど前から介入のタイミングを計っていた」。とりわけ3月ごろからは、投機筋が積極的に円売りを仕掛ける様子が確認できていた。

勝因は「足元の情報量」

 神田の脳裏をよぎったのは…

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